山本文緒

人間が持って生まれた運命がみっつある。 その一、人は必ず死んでしまう。 その二、人は自分を表現せずにはいられない。 その三、人は人から愛されたい。 どんな人でも衣食住がとりあえず足りれば、次は人から“自分”というものを認めてもらいたくなるものだ。 仕事で、趣味で、他愛のないお喋りの中で、人は自分を表現する。どんなに無口でおとなしい人でも、やはり黙っていることで表現しているのだ。 そして、自分というものを愛してほしいのだ。 好きになってほしいのだ。誰かに。自分以外の誰かに。 死んでしまう前に。